シナリオ全然書かない人です

 GM――まあ、私の場合はRLだが、これをどんな心境でやっているのか? 意外に振り返ったことがない。
 例えば。プレイしているときの様子を、ハリウッド映画のワンシーンのようにとらえてみよう。
 今、まさに始まろうとしているところだ。テーブルのまわりには数名の男女が着席している。それぞれの前に、同じ紙が数枚ずつ配られている。一人はスケッチブックだろうか、真っ白な紙に何かを描き込んでいる。一人はルールブックを読みながら、「こっちにしようかなぁ……いやでもなぁ。やっぱり範囲攻撃が欲しいな」と呟いている。もう一人はサイコロなりトランプなりをもて遊びながら、ふと目に留まったお菓子の袋を開けている。そして一人は、何事かを熱心に質問している。質問に答えているのは、ぺらい紙を数枚手にしたヤツだ。
 ――こいつだ。一人、明らかに他と違う印象のヤツがいる。なにが違うのか、一口に言えない。緊張している。ノンキにしている。真剣な表情だ。うっかりしている。そして、そのどれもが当てはまる。
 ――こいつだな。こいつが、RLというヤツだ。
 自作のシナリオを引っさげてきて、クグツがどうのカリスマがどうのと言っている。もちろん彼は知らないが、このあと二時間くらいするとPCの一人が話の流れとしてPC1に対立することになり、物凄くキョドることになる。彼は良く失敗するのだが、今回も根拠のない自信で乗り切ろうとしているらしい。これから数ヵ月後には、手帳のページ見開きだけ見ながらRLを行うという一種の蛮勇を奮おうというのだから、まあ――この場では、失敗を恐れないヤツ、とでも言ってやろう。
 彼も昔は相当にシナリオを書きこんでいた。A4十数枚に及ぶこともざらだったし、まあ品質は贔屓目に見て下の上だったが、週に二つも三つも書いて「RLやるよ!」とガロード・ランなみに見得をきっていたのだから、情熱という点ではそこそこの評価だ。手元に置かれたルールブックは醤油色、特技ページのコピーがちょっと見ただけで100枚ちかくあるというのも、プラス評価としてカウントできるかもしれない。
 彼のTRPGライフは、GM(RL):PL比が7:3くらいで推移している。「GM(RL)をやりたい、それも自作シナリオで」という、ちょっとレアな『欲望』持ちにしては控えめな数字だ。この『欲望』、スーパーロボット大戦OG外伝で言うなら、《分身》持ちユニットくらいにはレアだ。
 そんな彼は、最近ではまるでシナリオを書かない。たまに書いたら書いたで、他人が読むことをまったく想定していない書式のため、あとからの再読すら困難だ。まともに読み取れるのはボスデータだけということすらザラにある。今も意気揚揚と質問に答えているが、手元にあるペラに目を移したなら、ほとんどメモ書き程度でしかないことがわかる。もちろん彼はこのあと、まず三十分後にNPCの反応に困ることになる。最終的に、エンディングでの対応について苦言を呈される。
 そして、帰りがけに思うのだ。もっときっちりシナリオを書いておけばよかった、と。そういう問題ではなく、PLとの意思疎通が重要なのだ、という初心をきちっと思い出すまで、まだまだ――。そう、きっちり一年かかる。

「よーしみんな、それじゃはじめよか。アクトトレーラーを読み上げるよー」
 おっと。ここからは彼の頑張りに期待するとしよう。